概要

地球上での位置を「正確に」記述するには緯度と経度だけでは十分でない。理由は地球の楕円体をどのように取るかによって同じ緯度・経度でも別の位置を示してしまうことがあるから。自転とか公転を無視して地球の中心を原点とするローカル座標を考えてみるとわかる。

さらに、緯度と経度で地球上の点を示す方法は、狭い範囲の地図においては決して効率の良い方法ではない。例えば市街地の地図の中のある点を緯度経度で表してもぱっと見て距離がわかりにくいし度数法は小数点とか分、秒とかいろいろ書き方があってめんどくさい。なので普通はそういう場合にはいろんな方法で楕円体を平面に投影してその中での直角座標(いわゆる数学とかで出てくる2次元グラフ)で表す。

GIS(Geographic Information System)などで地図を取り扱う場合にはこういうもろもろの方式を座標参照系(Coordinate Reference System:CRS)として設定できる。

測地系

測地系とは地球上のある位置を指し示すための座標系のこと。緯度と経度のことを地理座標というが、これによって地球上の位置を表すためにはいくつかの統一すべき事柄がある。

まず地球の大まかな形は北極と南極を押しつぶした楕円体になっているが、場所によっては山岳地帯があったり海面となっていたりして正確な楕円体ではない。この辺り突っ込んでいくとジオイドモデルとかの話が実は出てくるがひとまず、位置を表す際には適当な地球楕円体を定めてそのうえに地理座標系を設けるようになっている。このとき地球楕円体が異なると同じ地理座標でも異なる位置を表してしまう。こうならないために、測地系では使用する地球楕円体が定められている。

現在標準となっている測地系のひとつは測地基準系GRS80(Geodetic Reference System 1980)といわれる測地系で、名前から類推されるように1980年にできた。

もうひとつ世界測地系WGS84(World Geodetic System 1984)といわれる測地系が1984年に定められたがGRS80と実用上の違いはない。ほとんど同じ楕円体を表していて、その誤差が無視できるほど小さい。GPSなどで得られる地理座標がWGS84に基づいた値となっているためGRS80よりもWGS84という測地系を目にすることが多いし、他にもWGS84が使われる場面は多い。

結論として、測地系とえばほぼWGS84かそれとほぼ等価なGRS80一択で、同じ地理座標で別の位置を指し示してしまうことはほとんどない。ただし日本ではかつて日本測地系(Tokyo Datum)という測地系を使用しており、この測地系はWGS84と実用レベルのずれが生じるため古いデータに対しては注意が必要、ほとんどないと思うけど。GISソフトウェアで測地系を尋ねられたら、そのデータが日本測地系でないことを確認してWGS84を選んでおけば問題ないだろう。

投影座標系

言ったように地球上の位置を地理座標(緯度・経度)によってあらわすのはナンセンス。1:100000程度の地図で座標を地理座標で表したとすれば緯度、経度ともに小数点第何桁かぐらいにしか違いがなくなっちゃうね。そこで投影座標系といって、地球上のある区画を局所的に平面に投影してそこに座標をとる方法が何種類か決められている。

投影座標という言葉は地理座標という言葉と対立して用いられることが多い(と思っている)。でも、それらは対等というわけではなくて地理座標が測地系だけ定めればあとは緯度経度で位置が決まるのに対して、投影座標はさらに投影の方法も定めないといけない。直観的にも投影の方法がたくさんあることがわかると思う。次からよく使われる投影座標について説明していく。

UTM座標

ユニバーサル横メルカトル(Universal Transverse Mercator:UTM)は地球を地理座標で経度6度ごとに分割し、それぞれの領域を平面に投影する方法。投影の中心から遠くなるとひずみが大きくなるため全体として誤差を小さくするため地図全体が0.9996に縮小される、などUTMとしていろいろ決められている。UTMゾーンなどといった場合にはこの分割された60枚の平面の内どれかを指している。例えば日本であれば51~56枚目。それよりも細かいゾーンに分割されることもある。

特徴としてはユニバーサルとついているように地球上ほぼ全ての場所に対して対応する平面が設けられている。例によって北極、南極などの高緯度地域は表せないがこれらは実用上省いても問題ないことからそのようになっている。南は80度、北は84度までしか無理。

Webメルカトル座標

Googleマップとかで使われる。UTMがゾーンごとにメルカトル投影していたのに対してこちらは全部一度にメルカトル投影する。北と南は、投影後の平面が正方形となるように切り落とされる。Googleマップを縮小しつづけて見られる全体図はほぼ正方形になっているはず。

UTMと同じく地球上ほぼ全ての場所に対して決められるが、直観的にわかるようにUTMよりも誤差が大きい。距離が正確な地図を作る場合、その要求される水準によっては誤差は無視できない。便利な点としては正方形の全体図を縦横2分割していくズームレベルという仕組みで、それぞれのタイルは何回ズームしても正方形で、タイルの個数は必ず2の累乗になる。なのでコンピュータにやさしい。

日本の平面直角座標系

普通は英面直角座標といわれる。タイトルに「日本の」とあるのは、この座標が英語表記されるときにはJapan Plane rectangularとなっているから。発想はUTMと同じで、ある点を中心として平面に投影して全体として誤差を小さくするために縮尺の係数をいじる。日本に特化した座標なので日本国内の地図としてはUTMよりも正確。

UTMで日本に該当するゾーンがせいぜい5,6枚であったのに対して平面直角座標系は日本だけで19枚ある。ここから平面直角座標がUTMよりも正確な点がうなずける。当然のごとく日本以外では正確でないね。というか定義されないと思う。