とある数学の問題と解答のメモ921

/ Math Exercise

問題

(1-i) 行列\(A\)に対して、ある\(n\geqq 1\)が存在して\(A^n=E\)(単位行列)であれば、\(A\)は正則である。これを示せ。

(1-ii) 2次実正方行列\(X\)を変数とする以下の方程式に解は存在するか。もし存在するならば解のひとつを求めよ。

\[ \begin{pmatrix}2&2\\4&3\end{pmatrix}X+X\begin{pmatrix}1&1\\0&-1\end{pmatrix}=\begin{pmatrix}0&2\\0&1\end{pmatrix}\]

(1-iii) \(n\)次正方行列\(A\)の固有値を\(\lambda_1,\lambda_2,\dots,\lambda_n\)で表す。この時

\[ \text{trace}(A)=\lambda_1+\lambda_2+\dots+\lambda_n\]

を示せ。

(2-i) \(m\times n\)行列\(A\)\(m\)次元ベクトル\(b\)が与えられたとき\(Ax=b\)を満たす\(n\)次元ベクトル\(x\)が存在するための必要十分条件は以下の内どれか。

  1. \(\text{rank}(A)=\min(m,n)\)
  2. \(\text{rank}(A)=\text{rank}(b)\)
  3. \(\text{rank}(A)=\text{rank}(A|b)\) ここで\(A|b\)\(A\)\(b\)を横に並べた\(m\times(n+1)\)行列を示す。

(2-ii) \(m\times n\)行列\(S\)、正則な\(n\)次正方行列\(T\)について\(\text{rank}(S)=\text{rank}(ST)\)を示せ。

(2-iii) 行列\(U=\begin{pmatrix}a&1\\b&2\end{pmatrix}\)\(\text{rank}(U)>\text{rank}(U^2)\)を満たすとき、実数\(a,b\)を求めよ。

解答

(1-i)
\(A\)が正則でないとする、すなわち\(|A|=0\)
このとき任意の\(n\geqq 1\)に対して\(A^n\neq E\)であることを示す。
まず\(n=1\)の時明らかに\(A\neq E\)\(A^n\neq E\)とすると\(|A^{n+1}|=|A^nA|=|A^n||A|=|A^n|\times 0=0\)より\(A^{n+1}=E\)ではありえない。
従って\(A\)が正則でないとすると任意の\(n \geqq 1\)に対して\(A^n\neq E\)であるので、これの対偶をとるとある\(n\geqq 1\)が存在して\(A^n=E\)ならば\(A\)は正則である。

(1-ii)
\(X=\begin{pmatrix}a&b\\c&d\end{pmatrix}\)として素朴に計算していく。
(1,1)要素: \(2a+2c+a=3a+2c=0\)
(1,2)要素: \(2b+2d+a-b=a+b+2d=2\)
(2,1)要素: \(4a+3c+a=5a+3c=0\)
(2,2)要素: \(4b+3d+c-d=4b+c+2d=0\)
ここで第1式と第3式は\(a,c\)しか含まないのでこの2つだけで先に解いてしまう。具体的に抜き出して書くと

\[ \begin{pmatrix}3&2\\5&3\end{pmatrix}\begin{pmatrix}a\\c\end{pmatrix}=\begin{pmatrix}0\\0\end{pmatrix}\]

これは左辺の係数行列が正則であればただ1つの解を持つ。実際に計算すると\(\det=9-10=-1\neq 0\)。従って解は\(a=c=0\)のみ。 これをもとの方程式に代入すると\(b,d\)のみの簡単な方程式を得る。

\[ \begin{pmatrix}1&2\\4&2\end{pmatrix}\begin{pmatrix}b\\d\end{pmatrix}=\begin{pmatrix}2\\0\end{pmatrix}\]

これも公式を使うと簡単に解けて\(b=-2/3,d=4/3\)が解である。
以上より求める\(X\)\(X=\begin{pmatrix}0&-2/3\\4/3&0\end{pmatrix}\)で、もともとの方程式に解は存在する。

(1-iii)
まず行列の積を入れ替えてもトレースが変わらないことを示す。すなわち\(\text{trace}(AB)=\text{trace}(BA)\)
任意の行列\(A,B\)を取ってきてそれぞれの要素を\(a_{ij},b_{ij}\)で表す。このとき積\(AB\)の要素を\((AB)_{ij}\)とすると、

\[ (AB)_{ij}=\sum_{k}a_{ik}b_{kj}\]

と表せる。このトレースを計算すると、

\[ \text{traec}(AB)=\sum_{i}(AB)_{ii}=\sum_{i}\sum_{k}a_{ik}b_{ki}\\ =\sum_{k}\sum_{i}b_{ki}a_{ik}=\sum_{k}(BA)_{kk}=\text{trace}(BA)\]

これで\(\text{trace}(AB)=\text{trace}(BA)\)が示せた。
次に行列\(A\)を固有値分解すると\(A=PDP^{-1}\)という相似変換で表すことが出来る。ここで\(D\)は対角要素に\(A\)の固有値が並んだ対角行列である。示しておいたトレースの性質を用いると

\[ \text{trace}(A)=\text{trace}(PDP^{-1})=\text{trace}(DPP^{-1})\\ =\text{trace}(D)=\lambda_1+\lambda_2+\dots+\lambda_n\]

(2-i)
1は必要十分条件ではない。\(m>n\)の時\(\text{rank}(A)=n\)であったとする。このとき、\(A|b\)を行基本変形した結果、\(b\)\(k>n\)なる第\(k\)成分が0でない場合には解が存在しない。
2は必要十分条件ではない。\(\text{rank}{A}\neq\text{rank}(B)\)でも解は存在する場合がある。例えば

\[ \begin{pmatrix}1&1\\0&1\end{pmatrix}x=\begin{pmatrix}1\\2\end{pmatrix}\]

3は必要十分条件。

(2-ii)
一般的に行列の積はランクを小さくするため、

\[ \text{rank}(ST)\leqq\text{rank}{S}\]

今、\(T\)は正則であるため逆行列\(T^{-1}\)が存在する。従って

\[ \text{rank}(S)=\text{rank}(STT^{-1})\leqq\text{rank}(ST)\]

ただし、最後の等式は再び行列の積はランクを小さくするという事実を用いた。
以上より、正則行列\(T\)に対しては\(\text{rank}(ST)=\text{rank}(S)\)

(2-iii)
\(U\)が正則であれば前問の結果より\(\text{rank}(U)=\text{rank}(U^2)\)となってしまうため\(U\)は正則ではならない。つまり\(|U|=2a-b=0\)を得る。このとき\(U=\begin{pmatrix}a&1\\2a&2\end{pmatrix}\)\(\text{rank}(U)=1\)
2次正方行列のランクは0,1,2しかなく、考えられる不等式の組み合わせとしては\(1>0\)である。よって\(U^2\)のランクは0。

\[ U^2=\begin{pmatrix}a(a+2)&a+2\\2a(a+2)&2(a+2)\end{pmatrix}\]

より\(a=-2\)であれば\(\text{rank}(U^2)=0\)、従って求める\(a,b\)\(a=-2,b=-4\)