Rieszの表現定理は、ヒルベルト空間上の任意の有界線形汎関数がそのヒルベルト空間のある元との内積によって表現できて、その方法は一意であることを言っている。これをメモっておく。

以下\(\mathcal{H}\)\(K=\mathbb{R}\) or \(\mathbb{C}\)値関数からなるヒルベルト空間で、\(L:\mathcal{H}\to K\)とする。\(\alpha,\beta\)とか出てきた場合は任意の\(\alpha,\beta\in K\)とする。

内容

ヒルベルト空間\(\mathcal{H}\)上の有界線形汎関数\(L\)について、ある一意な\(g\in\mathcal{H}\)が存在して

\[ L(f)=\langle f,g\rangle_\mathcal{H}\quad\text{for all }f\in\mathcal{H}\]

が成立する。言い換えると、ヒルベルト空間\(\mathcal{H}\)上の汎関数が有界かつ線形であれば、その汎関数は必ずある\(\mathcal{H}\)の元\(g\)を用いて\(L(\cdot)=\langle\cdot,g\rangle_\mathcal{H}\)というそのヒルベルト空間におけるその元との内積という形式で表現することが出来て、その\(g\)は一意的である。

証明

汎関数\(L\)に対するゼロ空間\(\ker L=\{h\in\mathcal{H}\;|\;L(h)=0\}\)を考えると、\(L\)は線形なのでこの空間は\(\mathcal{H}\)の閉部分空間となる。なぜなら、\(h, h'\in\ker L\)ならば、\(L(\alpha h+\beta h')=\alpha L(h)+\beta L(h')=0+0=0\)より\(L(\alpha h+\beta h')\in\ker L\)である。

さらに\(\ker L\)\(\mathcal{H}\)の閉部分空間のとき、次の分解が可能である:\(\mathcal{H}=\ker L\oplus[\ker L]^\perp\)。ここに\([\ker L]^\perp\)\(\ker L\)の直交補空間であり、任意の\(\langle g, h\rangle, \forall h\in\ker L\)を満たす全ての\(g\)によって構成される。

(i) Trivial case

\(\ker L=\mathcal{H}\)のとき、\(g=0\)と取れば任意の\(f\in\mathcal{H}\)について、\(0=L(f)=\langle f,g\rangle_\mathcal{H}=0\)より主張を満たす。一意性はほぼ自明だがどんな\(f\)と内積を取っても結果がゼロになるのは\(g=0\)しか無いと考えればよい。

(ii) Non-trivial case

ある\(g_0\in[\ker L]^\perp\)が少なくとも1つ存在して、\([\ker L]^\perp\)は部分空間(≠部分集合)なので\(\alpha g_0\in[\ker L]^\perp\)が成立。\(g=\alpha g_0\)として適切に\(\alpha\)を選ぶことによって\(\|g\|_\mathcal{H}=L(g)>0\)と出来ることがわかる。例えば\(L(\alpha g_0)=\beta\)だったらば\(\alpha=\beta/\|g_0\|_\mathcal{H}\)と取ればいい。

\(h:=L(f)g-L(g)f\)と取る。\(L(f)\)などは汎関数の作用した後なのでただの数であり形式としては\(\alpha g-\beta f\)と同じなことに注意せよ。このとき\(L(h)=L(f)L(g)-L(g)L(f)=0\)より\(h\in\ker L\)

従って\(\langle g,h\rangle_\mathcal{H}=0\)。これは\(g\in[\ker L]^\perp\)かつ\(h\in\ker L\)であり直交補空間のそれぞれの元が直交していることから従う。\(h\)に再び代入すると

\[ \begin{align}\langle g, h\rangle_\mathcal{H}&=\langle g,L(f)g-L(g)f\rangle_\mathcal{H}\\&=L(f)\|g\|_\mathcal{H}-L(g)\langle g,f\rangle_\mathcal{H}\\&=\|g\|_\mathcal{H}(L(f)-\langle g,f\rangle_\mathcal{H})=0\end{align}\]

であり\(\|g\|_\mathcal{H}>0\)から、\(L(f)=\langle g,f\rangle_\mathcal{H}\)が従う。

(iii) Uniqueness

このような\(g\)が2つあってそれぞれ\(g, g'\)\(g\neq g'\)あったとする。このとき、\(\langle g,f\rangle_\mathcal{H}=L(f)=\langle g',f\rangle_\mathcal{H}\)が任意の\(f\in\mathcal{H}\)について成り立つ。変形すると\(\langle g-g',f\rangle_\mathcal{H}=0\)となり、今\(f\in\mathcal{H}\)は任意であるので\(f=g-g'\)と取ると、

\[ \langle g-g',f\rangle_\mathcal{H}=\|g-g'\|_\mathcal{H}=0\]

これは\(g=g'\)を意味するので過程に矛盾する。よってそのような\(g\)は1つしかない。

メモ

  • \(\mathcal{H}=\ker L\oplus[\ker L]^\perp\)の部分は線形代数における写像とのアナロジーで考えると簡単にわかるが、ヒルベルト空間の性質を用いてその一意性と存在条件を示すことができる。(閉部分空間であれば存在して一意)
  • 写像\(f\)に対して\(\ker f\)をその写像のゼロ空間とする表記の読み方は、このRiesz Representation theoremがカーネル関数の文脈で現れることと読み方がカーネルエフであることで紛らわしいため元の本では\(\mathbb{N}(L)\)と表記してnullspaceと呼んでいる。ヒルベルト空間上の写像に\(\ker\)を使うのかは不明。

参考

Martin J. Wainright., High-dimensional Statistics: A Non-asymptotic Viewpoint. p385. Theorem 12.5 (Riesz representation theorem)