2次元Laplace方程式で、単位円周上で境界値が与えられている境界値問題を考えます。つまり

\[ \begin{align}\Delta u(x,y)=0&\qquad(x^2+y^2\lt1)\\ u(x,y)=f(x,y)&\qquad(x^2+y^2=1)\end{align}\]

です。この解は\(u(r\cos\theta,r\sin\theta)=U(r,\theta)\)という極座標表示を用いて、次のように書き表すことが出来ます。

\[ U(r,\theta)=\frac{a_0}2+\sum_{n=1}^\infty r^n(a_n\cos n\theta+b_n\sin n\theta)\]

ここで、\(a_n,b_n\)は境界値\(f(\cos\theta,\sin\theta)=F(\theta)\)のFourier係数です。

\[ a_n=\frac1{\pi}\int_0^{2\pi}F(\theta)\cos n\theta d\theta\\ b_n=\frac1{\pi}\int_0^{2\pi}F(\theta)\sin n\theta d\theta\]

\(a_0\)\(n=1,2,\dots\)についてこのように計算されます。この表示を簡単にする過程でPoisson核なるものが現れます。これを見ていきましょう。

ポアソン核による表示

まずは普通にフーリエ係数を代入してみます。すると、

\[ \begin{align} U(r,\theta)&= \frac{1}{2\pi}\int_0^{2\pi}F(\phi)d\phi+ \sum_{n=1}^nr^n\left(\frac1\pi\int_0^{2\pi}F(\phi)\cos n\phi d\phi\right) \cos n\theta\\ &\qquad\qquad+ \sum_{n=1}^nr^n\left(\frac1\pi\int_0^{2\pi}F(\phi)\sin n\phi d\phi\right) \sin n\theta\\ &=\frac1{2\pi}\int_0^{2\pi} \left(F(\phi)+2\sum_{n=1}^\infty r^n F(\phi)\cos n\phi\cos n\theta\\ +2\sum_{n=1}^\infty r^nF(\phi)\sin n\phi\sin n\theta \right)d\phi\\ &=\frac1{2\pi}\int_0^{2\pi}F(\phi)\left( 1+2\sum_{n=1}^\infty r^n (\cos n\phi\cos n\theta+\sin n\phi\sin n\theta) \right)d\phi\\ &=\frac1{2\pi}\int_0^{2\pi}F(\phi)\left( 1+2\sum_{n=1}^\infty r^n \cos n(\phi-\theta) \right)d\phi \end{align}\]

こうなります。ここで

\[ P_r(\theta)=\frac1{2\pi}\left(1+2\sum_{n=1}^\infty r^n\cos n(\theta)\right)\]

とおきます。この\(P_r(\theta)\)Poisson核といいます。これを使うと最後の行は次のように書き表すことが出来ます。

\[ U(r,\theta)=\int_0^{2\pi} F(\phi)P_r(\phi-\theta)d\phi=(P_r*F)(\theta)\]

これは合成積、あるいは畳み込みと呼ばれる形です。Laplace方程式の境界値問題の解を境界値の極座標表示とPoisson核との畳み込みで表すことが出来ました。

Poisson核の変形

さきほどのPoisson核の定義から総和の記号を消したいと思います。なかなか思いつきませんが式変形は次のようになります。

\[ \begin{align} P_r(\theta)&=\frac1{2\pi}\left( 1+2\sum_{n=1}^\infty r^n\cos n\theta\right)\\ &=\frac1{2\pi}\left( 1+2\sum_{n=1}^\infty \mathrm{Re}(r^n e^{in\theta})\right)\\ &=\frac1{2\pi}\left( 1+2\mathrm{Re}\sum_{n=1}^\infty(re^{i\theta})^n\right)\\ &=\frac1{2\pi}\left( 1+2\mathrm{Re}\frac{re^{i\theta}}{1-re^{i\theta}}\right)\\ &=\frac1{2\pi}\left( 1+2\mathrm{Re}\frac{r(\cos\theta+i\sin\theta)} {(1-r\cos\theta)-ir\sin\theta}\right)\\ &=\frac1{2\pi}\left( 1+2\mathrm{Re}\frac{r(\cos\theta+i\sin\theta)(1-r\cos\theta+ir\sin\theta)} {(1-r\cos\theta)^2+r^2\sin^2\theta}\right)\\ &=\frac1{2\pi}\left( 1+2\frac{r\cos\theta(1-r\cos\theta)-r^2\sin^2\theta} {(1-r\cos\theta)^2+r^2\sin^2\theta}\right)\\ &=\frac1{2\pi}\left( 1+2\frac{r\cos\theta-r^2} {1-2r\cos\theta+r^2}\right)\\ &=\frac1{2\pi} \frac{1-2r\cos\theta+r^2-2(r\cos\theta-r^2)} {1-2r\cos\theta+r^2}\\ &=\frac1{2\pi} \frac{1-r^2} {1-2r\cos\theta+r^2} \end{align}\]

以上ですね。多分これより詳しく書いてるところないんじゃないかな。途中使っているのは\(\mathrm{Re} (e^{i\theta})=\mathrm{Re}(\cos\theta+i\sin\theta)=\cos\theta\)というやつ。ReはReal partで実部を表しています。次に使っているのは単純に等比級数の無限和の公式です。注意したいことは\(|re^{i\theta}|\lt 1\)ということです。理由は今\(x^2+y^2\lt 1\)という単位円内でのラプラス方程式を考えているからです。等比級数はこのように中身の絶対値が1以下でないと収束しません。

残りの部分は普通に実部を計算して通分しているだけです。つぎに性質を見ていきましょう。

Poisson核の性質

  1. \(P_r(\theta) \gt 0\)
  2. \(P_r(-\theta)=P_r(\theta+2\pi)=P_r(\theta)\)
  3. \(\int_0^{2\pi}P_r(\theta)d\theta=1\)
  4. 任意の\(\delta\in(0,\pi)\)に対して\(\delta\le|\theta|\le\pi\)なる\(\theta\)に関して一様に\(\lim_{r\to1-0}P_r(\theta)=0\)

まず1. について。分子は\(0\le r\le 1\)より正です。分母は

\[ 1-2r\cos\theta+r^2\ge 1-2r+r^2=(1-r)^2\ge 0\]

より正です。分母も分子も正なので全体として常に正です。

次に2.について、これはPoisson核の\(\theta\)に関するところが\(\cos\)だけなので明らかです。

3.についてはもともとのPoisson核が現れた箇所に立ち返ってみればすぐにわかります。\(\cos n\theta\)\(0\)から\(2\pi\)まで積分するとゼロになりますから。もともとの形を知っていなければにわかには信じがたい性質ですね。

4.については、区間\((0,\pi)\)において\(\cos\theta\)\(\theta\)に関する減少関数になっていることから、そいつにマイナスついていて増加関数になって増加関数が分母にいるので全体として減少関数です。減少関数ということは大小関係は逆になりますので\(0\lt P_r(\theta)\lt P_r(\delta)\)がわかります。いいですよね?次に右辺の固定した\(\delta\)については\(r\to 1\)で全体がゼロに収束することが示せます。分母が\(r\)の1次関数vs分子は\(r\)の2次関数なんでね。挟み撃ちにより\(\theta\)に関する一様収束がわかります。

Laplace方程式の境界値問題の解となっている確認

つづきます。