問題
(1) 行列\(A\)を次のようにおく。
\[ A=\begin{bmatrix}9&-26&24\\1&0&0\\0&1&0\end{bmatrix}\]
(1-1) 行列\(A\)の固有値をすべて求めよ。
(1-2) 行列\(B=(A-I)((A-2I)(A-3I)(A-4I)+I)\)とする。\(I\)は3次の単位行列。\(B\)の固有値をすべて求めよ。
(1-3) 設問(1-2)の行列\(B\)について、\(B^3-6B^2+11B\)をもとめよ。
(2) 最初の2項が\(x_0=2,x_1=1\)であり、それ以降直前の2項の和として各項が定まる数列はリュカ数列と呼ばれる。この数列の各項\(x_n\)がリュカ数である。
(2-1) リュカ数列の隣接する3項\(x_n,x_{n+1},x_{n+2}\)について、次式が成り立つ正方行列\(A\)を求めよ。
\[ A\begin{bmatrix}x_n\\x_{n+1}\end{bmatrix}=\begin{bmatrix}x_{n+1}\\x_{n+2}\end{bmatrix}\]
(2-2) 正方行列\(A\)の固有値\(\lambda_1,\lambda_2\)を求めよ。
(2-3) 正方行列\(A\)の固有値\(\lambda_1,\lambda_2\)に対応する固有ベクトルを\(v_1,v_2\)とする。\(v_1,v_2\)を\(\lambda_1,\lambda_2\)を用いて表せ。
(2-4) 固有ベクトル\(v_1,v_2\)が直交することを示せ。
(2-5) 正方行列\(A\)の固有値\(\lambda_1,\lambda_2\)を用いてリュカ数が次式で与えられることを示せ。
\[ x_n=\lambda_1^n+\lambda_2^n\]
解答
(1-1) 普通に計算する。
\[ |\lambda I-A|=\left|\begin{matrix}\lambda-9&26&-24\\-1&\lambda&0\\0&-1&\lambda\end{matrix}\right|=(\lambda-9)\left|\begin{matrix}\lambda&0\\-1&\lambda\end{matrix}\right|+\left|\begin{matrix}26&-24\\-1&\lambda\end{matrix}\right|\\=\lambda^2(\lambda-9)+26\lambda-24\\=\lambda^3-9\lambda+26\lambda-24\\=(\lambda-2)(\lambda-3)(\lambda-4)\]
これより\(\lambda=2,3,4\)が全ての固有値。
(1-2) ケーリー・ハミルトンの定理より固有多項式の\(\lambda\)を\(A\)に置き換えた行列はゼロ行列となるのでなかのごちゃごちゃした所はゼロ。具体的には\((A-2I)(A-3I)(A-4I)=O\)。よって\(B=A-I\)。少し考えればこれで\(\lambda=1,2,3\)が\(B\)の固有値だとわかるが念のため丁寧にやっておく。
まず\(Ax=\lambda x\)を満たすような\(x\)を\(B\)にかけてみる。すると
\[ \begin{align}Bx&=(A-I)x\\&=Ax-x\\&=\lambda x-x=(\lambda-1)x\end{align}\]
となるので\(A\)の固有値から\(1\)を減じた値は\(B\)の固有値となっていることがわかる。これは頭の中でもできるしよく知られていることであるが書いておいてもよいだろう。
(1-3) これもケーリー・ハミルトン。\((B-1)(B-2)(B-3)=0\)であるのでこれを展開すると、
\[ B^3-6B^2+11B-6I=0\\ \Rightarrow B^3-6B^2+11B=6I=\begin{bmatrix}6&0&0\\0&6&0\\0&0&6\end{bmatrix}\]
これはたまたま移項するだけで求まっているが、もし適当な多項式でもこの手の問題ではケーリー・ハミルトンを使うことで計算すべき行列のべきを落とすことができるということを覚えておこう。
3次正方行列であればケーリー・ハミルトンで出てきた最高次以外の項を右辺に移項して代入することを繰り返せば、何次の多項式でも\(B^2\)と\(B\)と\(I\)の多項式に落とし込める。2次正方行列ならば\(B\)と\(I\)だけだ。非常に簡単だろう。
もちろん代入したあとの多項式の計算は面倒くさいが例えば\(B^5\)などを計算するのとどっちが面倒かは言うまでもないだろう。
(2-1) \(x_{n+1}=x_{n+1}\)という発想があれば簡単。
\[ A=\begin{bmatrix}0&1\\1&1\end{bmatrix}\]
(2-2) 2次の固有値は解の公式が使えるので楽勝である。
\[ \lambda_1=\frac{1+\sqrt{5}}2,\ \lambda_2=\frac{1-\sqrt{5}}2\]
どちらを\(\lambda_1\)とおくかはどっちでも構わない。ただし途中で変えるのはだめ。
(2-3) 固有ベクトルは\((\lambda_1 I-A)v_1=0\)を満たす。愚直に計算してもよいが少しサボる。固有値なのだからこの係数行列はフルランクではないことはわかっているので係数行列の1行目のみに注目すると\(\lambda_1, -1\)となっているので\(v_1=(1,\lambda_1)^\top\)、同じようにして\(v_2=(1,\lambda_2)^\top\)がわかる。
(2-4) そんなの言われなくても対称行列の固有ベクトルなんだから当たり前だと言いたい。
\[ v_1v_2^\top=1+\frac{1+\sqrt{5}}2\frac{1-\sqrt{5}}2=1-1=0\]
もしこうならなかったらそれまでの計算が何か間違っている。
(2-5) これまでのはこのための誘導だろう。
\[ \begin{bmatrix}x_n\\x_{n+1}\end{bmatrix}=A\begin{bmatrix}x_{n-1}\\x_n\end{bmatrix}=A^2\begin{bmatrix}x_{n-2}\\x_{n-1}\end{bmatrix}=\dots=A^n\begin{bmatrix}x_0\\x_1\end{bmatrix}\]
より、\(A^n\)を計算してそれに\((x_0,x_1)^\top=(2,1)^\top\)をかけた1つ目の成分を求めればよい。答えは示されているので間違えないように計算するだけだ。
\[ P=\begin{bmatrix}1&1\\ \lambda_1&\lambda_2\end{bmatrix},\ D=\begin{bmatrix}\lambda_1&0\\0&\lambda_2\end{bmatrix}\\P^{-1}=\frac{1}{\lambda_2-\lambda_1}\begin{bmatrix}\lambda_2&-1\\-\lambda_1&1\end{bmatrix}\]
とすると\(A^n=PD^nP^{-1}\)である。まず\(\lambda_2-\lambda_1=-\sqrt{5}\)。これはどっちがどっちにするかでかわるが最後に辻褄はあう。
\[ \begin{bmatrix}1&1\\ \lambda_1&\lambda_2\end{bmatrix}\begin{bmatrix}\lambda_1^n&0\\0&\lambda_2^n\end{bmatrix}\begin{bmatrix}\lambda_2&-1\\-\lambda_1&1\end{bmatrix}\\ =\begin{bmatrix}\lambda_1^n&\lambda_2^n\\ \lambda_1^{n+1}&\lambda_2^{n+1}\end{bmatrix}\begin{bmatrix}\lambda_2&-1\\-\lambda_1&1\end{bmatrix}\\ =\begin{bmatrix}\lambda_2\lambda_1^n-\lambda_1\lambda_2^n&-\lambda_1^n+\lambda_2^n\\ \lambda_2\lambda_1^{n+1}-\lambda_1\lambda_2^{n+1}&-\lambda_1^{n+1}+\lambda_2^{n+1}\end{bmatrix}\]
これに\((2,1)^\top\)をかける。しっかり2行目は1行目で\(n\)に\(1\)足したものになっている。ここからは1行目のみ考えればよい。些細な計算だ。
\[ 2\lambda_2\lambda_1^n-2\lambda_1\lambda_2^n-\lambda_1^n+\lambda_2^n\\=\lambda_1^n(2\lambda_2-1)+\lambda_2^n(1-2\lambda_1)\\=\lambda_1^n(1-\sqrt{5}-1)+\lambda_2^n(1-1-\sqrt{5})\\=-\sqrt{5}(\lambda_1^n+\lambda_2^n)\]
これで終わりだ。逆行列の頭に出てきた\(-\sqrt{5}\)でわればいい。