問題
(1) 実数\(x\)について、無限級数\(\lim_{M\to\infty}\sum_{m=0}^M(-x)^m\)が収束するとき、以下を計算せよ。ただし\(x^0\equiv 0\)とする。
\[ (1+x)\lim_{M\to\infty}\sum_{m=0}^M(-x)^m\]
(2) \(n\times n\)実行列\(A\)について、ある自然数\(k\)があり、\(A^k=O\)(ゼロ行列)とする。この時\(I+A\)は正則であることを示せ。
(3) 以下の行列\(B\)と\(C\)について、\(B\)の逆行列を\(C\)の多項式として表現せよ。ただし単位行列\(I\)を用いてよい。
\[ B=\begin{bmatrix}1&-1&0&0&0\\0&1&-1&0&0\\0&0&1&-1&0\\0&0&0&1&-1\\0&0&0&0&1\end{bmatrix},\ C=\begin{bmatrix}0&-1&0&0&0\\0&0&-1&0&0\\0&0&0&-1&0\\0&0&0&0&-1\\0&0&0&0&0\end{bmatrix}\]
(4) 以下の2つの行列の行列式の値をそれぞれ求めよ。
\[ \begin{bmatrix}1&1&0\\1&1&1\\0&1&1\end{bmatrix},\quad \begin{bmatrix}1&1&0&0\\1&1&1&0\\0&1&1&1\\0&0&1&1\end{bmatrix}\]
(5) \(d\)次元実線形空間における\(n(2\le n\le d)\)個の\(d\)次元ベクトル\(a_1,a_2,\dots,a_n\)が線形独立であるとき、\(n\)個のベクトル
\[ \begin{eqnarray}b_1&=&a_1+a_2\\ b_k&=&a_{k-1}+a_k+a_{k+1}\quad(k=2,\dots,n-1), (n\ge 3)\\ b_n&=&a_{n-1}+a_n \end{eqnarray}\]
は線形独立であるか否か、理由をつけて答えよ。
解答
(1) \(|x|\lt 1\)のとき収束する等比級数と見なせるので
\[ \lim_{M\to\infty}\sum_{m=0}^M(-x)^m=\frac1{1+x}\]
である。よって
\[ (1+x)\lim_{M\to\infty}\sum_{m=0}^M(-x)^m=(1+x)\cdot\frac1{1+x}=1\]
(2) 実は前問が誘導になっている。\(A^k=O\)とすると、
\[ (I+A)(I-A+A^2+-\cdots+(-A)^{k-1})=I+(-1)^{k-1}A^k=I\]
が成立するので、両辺の逆行列を取ることにより
\[ |I+A|\neq 0, |I-A+A^2+-\dots+(-A)^{k-1}|\neq 0\]
でお互いがお互いの逆行列になっている。すなわち
\[ (I+A)^{-1}=I-A+A^2+-\cdots+(-A)^{k-1}\]
(3) \(B=I+C\)で、さらに\(C^5=O\)であることが簡単に確かめられるので前問の結果より直ちに
\[ B^{-1}=(I+C)^{-1}=I-C+C^2-C^3+C^4\]
が得られる。
(4) 計算するだけです。
\[ \left|\begin{matrix}1&1&0\\1&1&1\\0&1&1\end{matrix}\right|= \left|\begin{matrix}1&1\\1&1\end{matrix}\right|-\left| \begin{matrix}1&0\\1&1\end{matrix}\right|=-1\\ \left|\begin{matrix}1&1&0&0\\1&1&1&0\\0&1&1&1\\0&0&1&1\end{matrix}\right|=\left|\begin{matrix}1&1&0\\1&1&1\\0&1&1\end{matrix}\right|-\left|\begin{matrix}1&0&0\\1&1&1\\0&1&1\end{matrix}\right|\\ =-1-\left|\begin{matrix}1&1\\1&1\end{matrix}\right|=-1\]
(5) \(x=(x_1,x_2,\dots,x_n)\)とすると\(a_1,a_2,\dots,a_n\)は線形独立なので\(d\)次元実線形空間の任意の元は
\[ x=x_1a_1+x_2a_2+\cdots+x_na_n\]
で一意に表せる。このとき\(x\)は基底\(a_1,a_2,\dots,a_n\)の成分ベクトルである。また、仮に\(b_1,b_2,\dots,b_n\)も線形独立であれば\(y=(y_1,y_2,\dots,y_n)\)として\(d\)次元実線形空間の任意の元を
\[ y=y_1b_1+y_2b_2+\cdot+y_nb_n\]
で一意に表すことができ、逆に任意の元をこの形で一意に表すことが出できれば\(b_1,b_2,\dots,b_n\)は線形独立である。\(n\)次元の三重対角行列で非ゼロ成分が全て1、つまり主対角成分も副対角成分も全て1の行列を\(T_n\)とすると、\(x,y\)には
\[ y=T_nx\]
の関係が成立する。\(T_n\)が正則であれば\(x,y\)は1対1対応するので任意の元を一意に表すことができて\(b_1,b_2,\dots,b_n\)は線形独立である。\(T_n\)が正則でなければ、ある\(x\neq 0\)が存在して\(T_nx=0\)を満たすので、そのような\(x\)と\(x=0\)に対して両方\(y=0\)となってしまい両者を区別できないので、任意の元を一意に表すことが出来ない。よってこのとき\(b_1,b_2,\dots,b_n\)は線形独立でない。
\(T_n\)の行列式は前問の計算過程に注目する次のような漸化式で計算できる。
\[ |T_n|=|T_{n-1}|-|T_{n-2}|\]
初項は\(|T_1|=1,|T_2|=0\)である。3,4は既に求めていてその後を適当に最初の数項を計算すると
\[ \begin{eqnarray}|T_5|&=&-1-(-1)=0\\ |T_6|&=&0-(-1)=1\\ |T_7|&=&1-0=1\\ |T_8|&=&1-1=0 \end{eqnarray}\]
となって初項に戻ったので以降延々とこのパターンを繰り返すことがわかる。従って\(n=3m+2,\ (m=0,1,2,\dots)\)のとき\(T_n\)の行列式はゼロになり正則でない。したがってその場合に限って\(b_1,b_2,\dots,b_n\)は線形従属であるがその他の場合については線形独立になる。