問題
(1) \(x \)および\(b \)を\(n \)次元ベクトル、\(A \)を\(n\times n \)の正定対称行列、\(c \)をスカラとする。このとき
\[ f(x)=x^TAx+b^Tx+c\]
の極値および極値点を求めよ。
(2) \(n\times n\)の実行列\(A,B\)に対し、
\[ \ker A\cap\ker B\subseteq\ker(A+B)\]
が成り立つことを証明せよ。ただし\(\ker X\)は行列\(X\)で表現される線形写像の核(ゼロ空間)を表す。
(3) 次の行列\(A\)の固有値を求めよ。
\[ A=\begin{bmatrix}0.9&0&0&0\\1&0.5&a&0\\1&a&0.5&0\\-1&1&-1&0.8\end{bmatrix}\]
また、任意の4次元ベクトルに対し、
\[ \lim_{k\to\infty}A^kx=0\]
となる実数\(a\)の範囲を求めよ。ただし\(k\)は自然数である。
(4) \(x,y,z\)についての連立一次方程式
\[ \begin{eqnarray} 3x+2y+1z&=&0\\ 3x+1y+2z&=&0\\ ax+2y+3z&=&0 \end{eqnarray}\]
が\(x=y=z=0\)以外の解を持つ場合について以下の問に答えよ。
(4-1) 変数\(x,y,z\)の係数を並べたベクトル\(k_x,k_y,k_z\)が線形従属であることを示せ。
\[ k_x=\begin{bmatrix}3\\3\\a\end{bmatrix},\ k_y=\begin{bmatrix}2\\1\\2\end{bmatrix},\ k_z=\begin{bmatrix}1\\2\\3\end{bmatrix}\]
(4-2) 定数\(a\)の値を求めよ。
(4-3) この連立一次方程式は、行列\(A\)を用いて
\[ A\begin{bmatrix}x\\y\\z\end{bmatrix}=\begin{bmatrix}0\\0\\0\end{bmatrix}\]
と書くことが出来る。このとき、行列\(A\)の階数を求めよ。
(4-3) 各方程式の係数を並べたベクトル\(k_1,k_2,k_3\)を用意する。これらのベクトル全てと直交するベクトルを求めよ。
\[ k_1=\begin{bmatrix}3\\2\\1\end{bmatrix},\ k_2=\begin{bmatrix}3\\1\\2\end{bmatrix},\ k_3=\begin{bmatrix}a\\2\\3\end{bmatrix},\ \]
解答
(1) 正定値なので凸関数となり停留点で最小値を取る。両辺微分してゼロと置くと、
\[ f'(x)=2Ax+b=0\ \Rightarrow\ x_0=-\frac12A^{-1}b\]
が極値点。このときの関数の値を求めると、
\[ f(x_0)=\frac14(A^{-1}b)^TAA^{-1}b-\frac12b^TA^{-1}b+c\\ =\frac14b^TA^{-1}b-\frac12b^TA^{-1}b+c\\ =-\frac14b^TA^{-1}b+c\]
となる。
(2) ゼロ空間を具体的に書き下すと、
\[ \ker A=\{x\in\mathbb{R}^n|Ax=0\}\\ \ker B=\{x\in\mathbb{R}^n|Bx=0\}\\ \ker(A+B)=\{x\in\mathbb{R}^n|(A+B)x=0\}\\\]
これを踏まえて、もし\(x\)が\(x\in\ker A\)かつ\(x\in\ker B\)を満たすとする。このとき、\(0=Ax+Bx=(A+B)x\)より、このような\(x\)は必ず\(x\in\ker(A+B)\)を満たしている。よって\(\ker A\cap\ker B=\ker(A+B)\)が成立。
(3) 固有方程式\(|\lambda I-A|=0\)を解く。
\[ \left|\begin{matrix}\lambda-0.9&0&0&0\\ -1&\lambda-0.5&-a&0\\ -1&-a&\lambda-0.5&0\\ 1&-1&1&\lambda-0.8\end{matrix}\right|\\ =(\lambda-0.9)(\lambda-0.8)\left|\begin{matrix}\lambda-0.5&-a\\ -a&\lambda-0.5\end{matrix}\right|\\ =(\lambda-0.9)(\lambda-0.8)(\lambda-0.5+a)(\lambda-0.5-a)\]
これより、固有値は\(\lambda=0.9,0.8,0.5\pm a\)。
(4) \(x\)を\(A\)の固有ベクトルの線形結合で表す。具体的に求める必要は無く、例えば\(x=\alpha_1v_1+\alpha_2v_2+\alpha_3v_3+\alpha_4v_4\)とする。このとき
\[ A^kx=\lambda_1^k\alpha_1v_1+\lambda_2^k\alpha_2v_2+\lambda_3^k\alpha_3v_3+\lambda_4^k\alpha_4v_4\]
と表せる。これがゼロに行くためには\(|\lambda_i|\lt1\)。0.8と0.9は既に満たしているので\(|0.5\pm a|\lt 1\)であればよい。よって\(|a|\lt 1\)。
(4-1) \(x=y=z=0\)以外の解を持つので、その解を\(x',y',z'\)とすると
\[ k_xx'+k_yy'+k_zz'=0\]
これは\(k_x,k_y,k_z\)が線形従属であることそのままを表している。
(4-2) 係数行列の行列式がゼロになるように\(a\)を決める。
\[ \left|\begin{matrix}3&2&1\\ 3&1&2\\ a&2&3\end{matrix}\right|=\left|\begin{matrix}3&2&1\\ 0&-1&1\\ a&2&3\end{matrix}\right|\\ =\left|\begin{matrix}2&1\\-1&1\end{matrix}\right|a+3\left|\begin{matrix}-1&1\\2&3\end{matrix}\right|=3a-15=0\\ \therefore\ a=5\]
(4-3) 行列式求めたのと似たようなノリで計算できる。
\[ \begin{bmatrix}3&2&1\\ 3&1&2\\ 5&2&3\end{bmatrix}\to\begin{bmatrix}3&2&1\\ 0&-1&1\\ 5&2&3\end{bmatrix}\\ \to\begin{bmatrix}15&10&5\\ 0&-1&1\\ 15&6&9\end{bmatrix}\to\begin{bmatrix}3&2&1\\ 0&-1&1\\ 0&-4&4\end{bmatrix}\\ \to\begin{bmatrix}3&2&1\\ 0&-1&1\\ 0&0&0\end{bmatrix}\]
よりランクは2。
(4-4) 前の問題の方程式を解けばよいので、ランクを求める時にでてきた最後に注目して、\(z=c\)とおくと\(y=c\)、\(x=-(2c+c)/3=-c\)がでる。よって
\[ x=\begin{bmatrix}-1\\1\\1\end{bmatrix}c\]
が求めるベクトル。\(c\)は任意定数。