問題
(1) 3次元実ベクトル空間において、媒介変数\(p,q\)によって定義される平面
\[ \begin{pmatrix}2\\0\\1\end{pmatrix}+p\begin{pmatrix}0\\-1\\1\end{pmatrix} +q\begin{pmatrix}3\\1\\0\end{pmatrix}\]
を考える。この平面を、\(\alpha\)を係数ベクトル、\(x\)を変数ベクトルとする方程式\(\alpha^Tx=1\)で表したとき、係数ベクトル\(\alpha\)の値を求めよ。
(2) 実数\(x,y,\alpha\)によって定義される不等式
\[ x^2+y^2+axy>0\]
を考える。この不等式が\(x=y=0\)を除くすべての\(x,y\)の組に対して成立するための必要十分条件を\(\alpha\)の範囲として求めよ。
(3) 正方の複素行列\(A\)がユニタリ行列によって対角化されるとき、\(AA^*=A^*A\)が満たされることを証明せよ。
(4) ベクトル\(x,y\)に対して\(x^Ty\)によって内積が定義された\(N\)次元実ベクトル空間\(V\)を考える。この空間\(V\)の基底を\(\{a_1,a_2,\dots,a_N\}\)とする。
(4-1) \(a_1\)を用いて
\[ b_1=\frac{a_1}{\|a_1\|}\]
とする。\(b1\)と直交する大きさ1のベクトル\(b_2\)を\(a_2\)と\(b_1\)の線形結合で表せ。さらに\(b_1,b_2\)と直交する大きさ1のベクトル\(b_3\)を、\(a_3,b_1,b_2\)の線形結合で表せ。
(4-2) \(V\)の\(M\)次元部分空間\(W\)の正規直交基底を\(\{b_1,b_2,\dots,b_M \} (M<N)\)とする。\(V\)の現\(v\)を\(W\)へ正射影して得られるベクトルを\(w\)とすると\(v\)と\(w\)の関係は行列\(S\)を用いて
\[ w=Sv\]
と表すことが出来る。\(S\)を求めよ。
(4-3) \(V\)の元\(v\)と、\(V\)の\(M\)次元部分空間\(W\)へ\(v\)を正射影して得られるベクトル\(w\)について、
\[ \|w\|\leqq\|v\|\]
が成り立つことを示せ。
解答
(1) \(x=(x_1,x_2,x_3)^T\)と表して媒介変数\(p,q\)を消去する。
\[ x_1=2+3q\\x_2=-p+q\\x_3=1+p\]
第1式より\(q=(x_1-2)/3\)、第3式より\(p=x_3-1\)を第2式に代入すると、\(x_2=-(x_3-1)+(x_1-2)/3\)を得る。あとはこれを整理すると
\[ x_2=-x_3+1+\frac13x_1-\frac23\\ -\frac13x_1+x_2+x_3=\frac13\\ -x_1+3x_2+3x_3=1\\ \begin{pmatrix}-1&3&3\end{pmatrix}\begin{pmatrix}x_1\\x_2\\x_3\end{pmatrix}=1\]
より\(\alpha=(-1,3,3)^T\)が答え。
(2) 左辺を次のように変形する。
\[ x^2+y^2+\alpha xy=\begin{pmatrix}x\\y\end{pmatrix}^T \begin{pmatrix}1&\alpha/2\\\alpha/2&1\end{pmatrix}\begin{pmatrix}x\\y\end{pmatrix}\]
真ん中の正方行列が正定値行列であれば与えられた不等式は満たされる。これより、\(\alpha/2>0\)かつ\(1-\alpha^2/4>0\)なので求める条件は\(0<\alpha<2\)。ちなみに正定値行列の固有値が全て正という定義を使っても求まる。
(3) 仮定よりあるユニタリ行列\(U\)が存在して\(U^*AU=D\)。ただし\(D\)は次のような対角行列
\[ D=\begin{pmatrix} \lambda_1&0&\dots&0\\ 0&\lambda_2& &\vdots\\ \vdots& &\ddots&0 \\ 0&\dots&0&\lambda_n \end{pmatrix}\]
このとき、\(A=UDU^*\)、両辺のエルミート取ると\(A^*=UD^*U^*\)。これより\(AA^*=UDD^*U^*\)、\(A^*A=UD^*DU^*\)。
\[ DD^*=\begin{pmatrix} \lambda_1\overline{\lambda_1}&0&\dots&0\\ 0&\lambda_2\overline{\lambda_2}& &\vdots\\ \vdots& &\ddots&0 \\ 0&\dots&0&\lambda_n\overline{\lambda_n} \end{pmatrix}=D^*D\]
より結局\(AA^*=A^*A\)が成り立つ。
(4-1) これはグラムシュミットの直交化を書き下すだけの問題。
\[ b_2=\frac{a_2-b_1^Ta_2b_1}{\|a_2-b_1^Ta_2b_1\|}\\ b_3=\frac{a_3-b_1^Ta_3b_1-b_2^Ta_3b_2}{\|a_3-b_1^Ta_3b_1-b_2^Ta_3b_2\|}\]
大きさ1が指定されていることに注意。実際には方向だけ定めてから正規化するがここでは一度に両方することが求められている。
(4-2) 正規直交基底なので\(\|b_i\|=1, i=1,2,\dots,M\)を満たしている。よって、\(v\)を\(W\)に射影したときの\(b_i\)成分は\(b_i^Tv=v^Tb_i\)と書ける。従って、
\[ \begin{eqnarray}w&=&(b_1^Tv)b_1+(b_2^Tv)b_2+\dots+(b_M^Tv)b_M\\ &=&b_1b_1^Tv+b_2b_2^Tv+\dots+b_Mb_M^Tv\\ &=&(b_1b_1^T+b_2b_2^T+\dots+b_Mb_M^T)v\end{eqnarray}\\ \therefore\ S=b_1b_1^T+b_2b_2^T+\dots+b_Mb_M^T=\sum_{i=1}^Mb_ib_i^T\]
(4-3) 直観的には射影されたベクトルの方が長さが小さくなることはわかる。これがわかれば示せたも同然である。 まず\(W\)の直交補空間\(U\)を考える。ベクトル\(v\)を\(U\)に正射影して得られるベクトルは\(u=(I-S)v\)と表すことができて、直交補空間なので\(u\)は\(w\)と直交していて\(w^Tu=0\)。任意の\(v\)は
\[ v=Sv+(I-S)v=w+u\]
と分解することが出来て、
\[ \|v\|^2=v^Tv=(w+u)^T(w+u)\\=w^Tw+u^Tu+2w^Tu\\ =\|w\|^2+\|u\|^2\]
これより\(\|w\|\leqq\|v\| \)がいえた。さらに等号成立は\(\|u\| \)の大きさが0である時で\(\|u\| \)が大きければ大きいほど等号から離れていくことも分かった。